介護事業所にて外国人雇用を検討する場合には、外国人材が介護業で就労可能な在留資格を取得する必要があります。この在留資格はいくつかの種類があり、資格ごとに就労できる業務内容や活躍できる業態が異なっています。
そのため介護事業所側が在留資格の内容を十分に理解していないと、
- 本来の業務内容ではない業務に従事させてしまっている
- 在留期限が切れていたことに気づかず、継続して働いていた
といった事態が発生し、最悪の場合は「入管法違反による不法就労」といったトラブルに発展してしまう可能性があります。
そこで本記事では、介護事業者様や介護業界に関わる人材会社様が知っておきたい介護業界における在留資格について解説します。この記事をご覧いただくことで、在留資格の基本を理解できますので、ぜひご覧ください。
介護業界における在留資格の種類
介護業界で活用できる就労系の在留資格は下記の4つです。
- 在留資格「介護」
- EPA(経済連携協定)
- 技能実習
- 特定技能1号
介護事業者側は、これらの資格を持つ外国人材を受け入れることが可能です。ただし、いずれの在留資格も制度の目的・内容が異なるため、各在留資格の本質的な目的を理解したうえで、業務内容に見合った人材をマッチングしていくことが重要です。
続いて、それぞれの在留資格について詳しく解説します。
在留資格「介護」
概要
在留資格「介護」は、介護福祉士の資格を持つ外国人材が、日本で介護業務に従事する際に必要な資格です。この資格には在留期間に制限がないため、介護事業者に従事する限り、長期に渡って活躍することができます。
ただし、在留資格「介護」は介護福祉士の合格が必要となるため、前提として来日後に介護福祉士養成施設で勉強をしたり、技能実習生として就労したりといった学習や実務経験が必要です。そのため、一般的には介護福祉系の専門学校などに留学しながら、介護のアルバイトをして合格する方が大半を占めています。
しかし、現状では介護資格取得を目指す外国人材の数はまだまだ少ないのが現状です。なぜなら、国家資格である介護福祉士試験はすべて日本語で行われるため、外国人材からすれば、高い日本語力が求められるからです。
そのため介護事業者側は、まずは技能実習等で雇用して、業務経験を積んだうえで本人のキャリアアップをサポートするといった柔軟な対応が求められます。
注意点
「介護」の在留資格で就労を行うため、当然ながら職務内容としては、介護業務・介護指導に関する職務に従事している必要があります。
とりわけ注意すべきは報酬額の設定です。外国人材であっても、日本人と同程度の業務を行っている場合は、報酬額も同等に設定する必要があります。もし、同じ業務を行わせていながら、日本人との報酬に違いがあった場合には、入管法上の違反に該当します。
賃金設定については日本人と同様にキャリアプランを設けて、外国人材も快適に働ける環境を整備することが重要です。
EPA(経済連携協定)
概要
EPAとは「Economic Partnership Agreement」の略称で、「経済連携協定」と訳されます。EPAは、投資・人の移動・知的財産の移動の自由化・円滑化を図り、幅広い経済関係の強化を図る協定です。
EPAと似た言葉に、FTA(Free Trade Agreement)があります。FTAとは自由貿易協定のことで、特定の国・地域間における、関税やサービス貿易の障壁を削減・撤廃を目的としています。
つまりFTAに加えて、投資協定・知的財産権・労働市場の開放などの取り組みを行う協定がEPAということになります。
画像引用元:日本貿易振興機構(ジェトロ)|経済連携協定(EPA)とは?
介護領域においては、ベトナム・フィリピン・インドネシアの3カ国とEPAを締結しており、相手国人材が日本での介護福祉士の取得を目指すことを目的としています。
各国の受け入れ要件は以下の通りです。
ベトナム | フィリピン | インドネシア | |
日本語能力 | 日本語能力試験N3以上 | 日本語能力試験N5程度以上 | 日本語能力試験N5程度以上 |
学習要件 | 3年制または4年制の看護過程修了 |
4年制大学卒業+フィリピン政府による介護士認定 またはフィリピンの看護学校卒業(4年) |
高等教育機関卒業(3年以上)+インドネシア政府による介護士認定 またはインドネシアの看護学校卒業(3年以上) |
一定の知識・経験を持った人材が技能研修として就労するため、比較的高いコミュニケーション能力や技能が期待できる点がメリットとして挙げられます。
注意点
外国人材は入国後4年目に介護福祉士の国家試験の受験があるため、受け入れ機関側は介護福祉士の取得に向けた学習サポートが求められます。単に目先の人材不足の解消だけではなく、中長期的な視点を持つことが大切です。
技能実習
概要
外国人技能実習制度は、外国人材を各産業現場で受け入れることで、OJTを通じて不技術や知識を習得し、母国の経済発展に役立ててもらうことを目的とした制度です。
建設業や農業などさまざまな分野がありますが、2017年11月より介護分野も技能実習の対象に加わりました。介護分野における技能実習生は、日本語と介護の基礎講習(1〜2ヶ月程度)受けた後に、受け入れ機関へ配属となります。
実習可能期間は最長5年間までとなっており、実習生は1年目と3年目の修了時点で試験を受け、試験の合格および優良認定が必要です。
注意点
実習生に対して劣悪な対応を強いるなど待遇の悪さが社会問題となっていますが、中には受け入れ機関が正しい知識を持たずに法令違反となっているケースもあります。そのため、受け入れ体制の構築と正しい知識の習得が必要です。
また、悪質ブローカーによって高額な仲介手数料を請求される被害も起きていますので、注意しましょう。
特定技能1号
概要
特定技能制度とは、中小企業をはじめ人手不足が深刻化する中、生産性向上・人材確保を目的に一定の専門性・技能を持つ外国人材を受け入れる制度のことです。2019年4月に施行されました。
特定技能には1号と2号といった、2種類の在留資格があり、必要とする技能と知識によって資格が分けられています。
介護分野は「特定技能1号」に該当し、身体介護(入浴、食事、排せつなど)のほか、付随する支援業務(レクリエーション・機能訓練補助など)を行うことができます。
人材基準は、日本語能力試験N4または国際交流基金日本語基礎テストに加えて、介護日本語評価試験の合格した者と定められています。在留期間は、更新制で最大5年間となっています。
特定技能精度の活用メリットとしては、他の在留資格と比べて、業務内容や人数への制限が少ないことです。技能実習と異なり、入社後すみやかに人員配置基準へ算定されることも特徴として挙げられます。
注意点
特定技能制度は、訪問介護などの訪問系サービスに従事させることはできません。また、介護事業者が特定技能1号を受け入れる際は、外国人材と「特定技能雇用契約」を結ぶ必要があるほか、職業生活上・社会生活上の「支援計画」を作成義務が定められています。
雇用契約書や支援計画を新たに作成・変更した場合は、都度行政に提出が必要です。届け出を怠ったり違反があったりした場合は、指導や罰則の対象となる可能性があります。
また、
- 外国人材が受け入れ企業の責任によって失踪した場合
- 特定技能の満了後に自国に帰国せず在留した場合
などは、その後外国人労働者の受け入れが認められなくなるため、注意しましょう。
在留資格の判断・使い分けについては専門家にご相談ください。
本記事では介護業界における在留資格の種類と概要を解説しました。各在留資格の制度をしっかりと理解した上で、事業所の状況にあわせて使い分けることが重要です。
しかしながら、在留資格が複数にまたがっており、要件内容としても複雑なものが多いため、どれが最適なのか悩まれる方も多いでしょう。そうした場合は、専門家に相談することがおすすめです。現在人手不足でお困り場合は、専門家と連携を図ることで、安心して外国人材の受入体制を構築できます。
当さむらい行政書士法人では、介護業界における在留資格の相談を承っています。中でも、事業所側で負担になりがちな「特定技能の雇用手続き業務」にも対応しており、数多くの事業者様を支援してきました。
外国人雇用でお困りの介護事業所様・人材紹介事業者様は、さむらい行政書士法人までお気軽にご相談ください。